481335 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

yuuの一人芝居

yuuの一人芝居

群雀

群雀

天誅組は天に変わって罰すると言う集団であった。
最初は主義があったが、終わりのころになると誰れでも良かった。
豪商や大地主の家に押し込み「天誅」と叫んで殺し金品を強奪した。
幕府役人に追われ、勤王派にも狙われ、組は自然に消滅して行き残った者は全国へ散らばった。
原田新介が倉子城へ来たのはそんなころだった。
彼は薩摩を目指していた。京へ出て改めて、、大きな江戸幕府の屋台骨がグラグラと揺れているのが見えた。淀川を下って大坂へ、そこでは商人だけの掛け声が威勢よく響いていた。かれはそこ事にも嫌気がさしていた。
そこも棄てた。どうせこの世はどこで死んでも夢枕、彼はそのように開き直
っていた。山陽道を下って白鷺、烏の城を斜めに見て、倉子城で一息ついた。幕府直轄地と云うのが気にいった。
段平を肩に背負って村中を歩いて押し込みの商家を捜した。
文久の三年続きの飢饉がより幕府の財務を緊迫させた。國民の窮状は目に見
張るものがあった。そこで、幕府はいつもの愚作津留め令を引いた。倉子城も例外ではなかった。が、蔵出しで賑やかであった。
彼は橋の袂の下津井屋に目星をつけた。川の東にある代官所が気になったが
彼も懐が淋しかった。
「こざっぱりするか」
彼は川筋からひとつ入った床屋の前立ち止まった。
「ここは何時もこんなに賑やかなのかね」
髷をまかせながら新介は尋ねた。
「港ではありませんが、荷だけは沢山集まりますから・・・」
嘉平は当たり障りのないような言い方をした。それは丁寧な応えだった。
「津留めと云うのは一品足りとも荷を出してはいけねえのではねえのけえ」
新介は言葉を膝に落とした。
「ここは港ではありませんから・・・」
嘉平は客の横柄な態度に投げる様に答えた。
「船に荷を積むのは荷出しではねえのけえ」
新介は津留めの事を餌にして難癖をつけながら嘉平を測ろうとしていた。
「さあ・・・」
嘉平は何者なんだと思いながら面倒なことにならねば良いがと思った。
「ここの代官は黙っているのけえ」」
「さあ、それは・・・」
嘉平は津留めについては一つの考えを持っていた。が、見も知らずの一見の
客に云うことはないとためらった。
「悪と正直者の差は大層に開くことだろうな」
全くだと嘉平は相槌をうちたかった。
「旦那はどちらからおいでなすった」
「東だ」
「ひがし、と云われましても・・・」
「ここから東と云えば・・・大坂京に江戸・・・」
「お言葉では、関東の様にお見受け致しますが・・・」
「関東か、おやじはこの地から足を外へ出したことがあるのか」
「どういうことで御座います」
「おやじには東の訛りがある」
新介は決めつけた言い方をした。
「ありませんが、この村には全国から商い人が集まりますから・・・」
嘉平はどきりとして慌てて筒込みを交わせた。
嘉平は何時もの威勢はなかった。何か得体の知れないものが背筋を走るのを
感じたいた。
「こわいか?」
新介は問った。どすの聞いた声音だった。
「へい。・・・それは・・・。ですが、何か御用でここえ・・・」
「ああ、薩摩への寄り道だ」
「じゃあ、旦那は・・・」
「唯行って見たいだけだ。風を起こし波を立てているのはどん奴か、出来ればこの目で確かめてえ」
「さいでやすか、それではどうか向後の道程には充分のご注意をなさいまし」 嘉平は丁寧に言った。
「ところでここの代官は何年なる」
「ええ?」
「ここえ来て何年なるのかと・・・」
「へい。二年でしょうか?」
「二年か・・・」
「へい」
「代官はどんな奴だ」
「・・・といわれても・・・」
嘉平は答えようがなかった。
「答えなれねえ様な奴か」
新介は嘉平の心を読んで言った。
「そんな・・・役人といやああんなものでしょう」
「あんなものか・・・ということは多くの代官を知っていることになるな」
「旦那はなにがいいたいので・・・」
「なに、言って見れば暇つぶしてえところだ」
「お人が悪うございますよ」
「有り難うよ」
新介はそう言って出て行った。
この村で事件が起こらなければ良いがと嘉平は後ろ姿をちらりと見て思った
。 土間に西陽が遊び始めていた。その中で雀が群れながら餌を啄んでいた。
数日後の師走十八日の明け方下津井屋事件が起こり主人をはじめ全員が惨殺
され全焼した。

その事件の後、村から原田新介の姿が消えた。
この事件を皮切りに村は大きく変貌し、幕府直轄の代官所が元長州奇兵隊に
よって襲撃される事件へと繋がって行く、その助走であった。

今、群雀(むらすずめ)は倉敷の銘菓として土産物屋の店頭を賑あわしてい
る。


© Rakuten Group, Inc.